山下先生ありがとう、素晴らしい映画を魅せてくれて…

リンダリンダリンダ」を観たらめちゃんこ良かった。文化祭が出てきたので、「ウォーターボーイズ」と比べながら観てしまったんだけど、「リンダリンダリンダ」のほうがめちゃんこ良いと思う。

ウォーターボーイズ」と「リンダリンダリンダ」との大きな違いは、テレビとのかかわり方にあるような気がする。
それは映画の画面がテレビっぽい/映画っぽいという問題ではなくて(それももちろんあるけど)、もっと単純に、「ウォーターボーイズ」のラストでお客さんがたくさん入ってボーイズたちを応援するのは、海で練習中のボーイズたちがテレビのニュース番組で紹介されたからだったのに対し、「リンダリンダリンダ」のラストでお客さんがたくさん入っているのはどしゃ降りの雨でみんな体育館に避難してきていたからだったということだし、「ウォーターボーイズ」ではお客さんたちがボーイズたちをわざわざチケットまで買って見に来て盛り上がったのに対し、「リンダリンダリンダ」ではむしろ最後のバンドの前につなぎで登場した女の子の歌唱力に引きつけられていたお客さんたちがその流れで四人をみて、その四人がたまたま演奏したブルーハーツをみんな聴いたことがあり、みんなブルーハーツを好きだと思っていたために盛り上がったということで、ボーイズたちがテレビを通じてテレビタレントみたいになったのに対して、四人の女の子たちは女の子たちのままだったところがなによりも素敵だと思った。

留学生のソンも、もともと留学生だからという理由で学校のみんなから知られていて人気者だったということもなく、むしろ同じバスに乗り合わせても気づかれないくらいの存在だったし、そのソンがブルーハーツの歌を、おそらくあまり意味はわからないまま音として覚えて歌ったものに対してお客さんたちが盛り上がるところがすごくいい。だから四人がオリジナルの曲を演奏していたらこの映画はこんなにめちゃんこ良くはならなかったはずだと思う。ブルーハーツがこの映画において果たしていた役割は、青春といえばブルーハーツ、だからはずせない!というものではなく、むしろみんな自分から熱心に聴くことはなくても知り合いの誰かが聴いているのをなんとなく一緒にいて聴いていたために知っていて、特別な思いいれがなかったとしても嫌いということもない程度で聴けばなんとなく盛り上がることができるという、そんなバンドの曲を四人が成り行きで演奏することになれば、(「ウォーターボーイズ」とは違い)お客さんたちが四人をタレントのように扱うのではなく、ただ知っている曲が演奏されたので盛り上がり、四人はタレント化することなく、普通の人のままライブをするというラストになる、その〈みんな知っている曲〉にふさわしいのがブルーハーツだったんだろうと思う。

テレビとのかかわり方ということを考えさせられたのは、ラストの違いからだけではなく、それよりも四人の自宅がものすごく生活感にあふれていたからで、「リアリズムの宿」を観た時も、旅の途中で転がり込んだ家でテレビゲームをするところなんかがものすごく生活感があるというか、こういう部屋実際にあるよなと思わされたんだけど、実際にありそうな、生活感あふれる部屋を映し出すのはかなりむつかしいことのように思えて、だから山下先生はすごいと思う。普段テレビドラマや映画などで部屋が映ると、たいていはきれいに片付けられていたり、生活感があると言ってもそれはテレビドラマや映画において生活感がある部屋はこの程度、といったもので、それを観ながら実際に自分が生活している部屋のことは置いておいて、これは生活感のある部屋を映しているんだなと思うようになっているんだけど、「リンダリンダリンダ」で出てくる部屋は本当に自分が生活している部屋が映されたみたいで、普段見慣れている風景のはずなのに、すごく驚かされる。
そして驚きながら、普段自分の生活している部屋に視線をおくりながらもそれを見ずに、テレビドラマや映画において生活感がある部屋はこの程度、とされるような環境に頭の中ですり替えて暮らしているかもしれないことに気づかされ、テレビを通じてしか自分の周りのものを見られない不自由さについても考えさせられる。この不自由な現状をそのまま映画にしたのが「ウォーターボーイズ」で、それに対してそんな状況を変化させたいというロマンティックな映画が「リンダリンダリンダ」だったんじゃないかという感想を持った、そんな感想を持ったのはたぶんいま小説でそんなようなことについて書こうとしているからだと思うんだけど……それに、不自由とか言いながら、こんな素敵な高校生活を送らなかった自分もこうして素晴らしい映画を観て実体験と映画とを積極的に混同して自分の素敵な経験としてカウントし、最終的に俺の人生、豊かな人生だったなと思えるようにしようかなと思ったりもするのでなかなかむつかしい問題だと思う。


あと、「森島の学習」を書かなかった間にみた、「ライフアクアティック」や「宇宙戦争」などのめちゃんこ良い映画については書かなかっただけあってあんまり考えられていないので、DVDが出たらいろいろ学習したい。