ロンドン旅行記②

セントポール寺院

「お話は、どうかな?」と、クリストファー・ロビンがいいました。
「お話がどうしたって?」と、わたしがききました。
「すみませんけど、おとうさん、モリシマにひとつしてやってくれない?」
「してやろうかな。」と、わたしはいいました。「モリシマは、どんなお話がすきだっけね?」
「じぶんが出てくるお話。モリシマって、そんなやつなんだよ。」
「なるほど。」
「だから、すみませんけど。」
「じゃ、やってみようかね。」
というようなわけで、わたしはやってみました。

きのうの夜、モリシマは飛行機でつかれていたせいか、時差のせいか、一時間おきに目をさましたりして、あまりねむれませんでした。
おまけに、ホテルのブレックファストサービスがどこにいけば食べられるのかわからず、「いやんなっちゃう!」と、モリシマはいいました。
こわごわ一階におりてみると、レストランにバイキング形式の朝ごはんがよういされていたので、『これなら英語がしゃべれなくたって、食事ができるなあ』とおもいながら、モリシマはシリアルとつめたいパンを食べました。
きょうは、お昼までに、「二階だてバスでまわる一日観光」のよていがありました。そのよていの前に、オクスフォードストリートをさがしてモリシマはうろうろしました。ちょっとだけ迷子になって、「いやんなっちゃう!」と、モリシマはいいました。
「一日観光」の集合ばしょのオクスフォードサーカスまで、はじめてアンダーグラウンドに乗りました。「マインドザギャップ」というアナウンスがあったので、モリシマはギャップにきをつけました。じぶんより背のたかい人たちにかこまれて、モリシマはこわごわ手すりをにぎりしめていました。
ぶじに集合ばしょについて、モリシマは二階だてバスに乗りました。
「みなさん、スリには気をつけてくださいね。スリはたいてい三にんでこうどうします。だってスリはスリー。」と、ガイドのおばさんはいいました。
「リーゼントヘアっていうのは、このリーゼントストリートのように美しいきょくせん、というところからその名前がついたんです。へぇー、へぇー、へぇー。今これ日本ではやっているんでしょう?がんばって日本のじょうほうをしいれてるんです。」とも、いいました。
ほんとうに天気がよく、雲ひとつないすみきった青空のしたでビックベンやバッキンガムきゅうでんを見ることができました。きゅうでんの前で、モリシマは、馬に乗ったポリスを見て「あはァ!」と、いいました。
とちゅう、黒くてもさもさした帽子をかぶった衛兵さんと写真をとることもできました。横にならんで写真をとらせてもらったので、モリシマは「センキューベリーマッチ」と、いいましたが、衛兵さんはぴくりともしませんでした。衛兵さんはぴくりともしてはいけないからなのでした。
お昼までにはオクスフォードサーカスにもどって、かいさんしました。お昼ごはんは日本食「さくら」でチャーシューメンを食べました。6ポンドでした。
お昼をすませると、こんどはひとりでロンドンブリッジにいきました。モリシマはまずテムズ川ぞいに出て、テートモダンから見ようとおもいましたが、歩いているとなぜかデザインミュージアムについていました。モリシマは、ひどく方向おんちなのです。

「ばっかなモリシマのやつ!」と、クリストファー・ロビンは笑いました。
わたしはつづけました。

デザインミュージアムの前で、ロンドン橋などのけしきをながめていると、日本人のカップルがモリシマに話かけてきました。
「デザインヤッテルンデスカ?」と、男のひとはいいました。
「やってません。」と、モリシマはきっぱりいいました。
男のひとは、じぶんにも「デザインヤッテルンデスカ?」とききかえしてほしそうな顔をしていましたけれど、モリシマはあえてききませんでした。『デザインヤッテナイひとはきちゃいけないのかな、いやんなっちゃう!』と、モリシマはおもいながら、ミュージアムに入りました。
中では、世界中のグッドデザイン商品をあつめて展示するという“THOMAS HEATHERWICK - CONRAN FOUNDATION COLLECTION”を見ることができました。さらには、1920〜2000年代の家具デザインの変せんも見ることができました。1980年代のポストモダンのデザインは、ロボットのかたちをしたイスやタンスなどがあって、とてもばかばかしくていやんなっちゃう!ようなおもしろいものでした。ファミコンみたいなゲームきもいろいろと展示されていて、すごくおもしろいなあ、とモリシマはおもいました。モリシマはデザインヤッテナイけれど、Tシャツをかいました。
そのあと、モリシマは、川ぞいにロンドン橋や、ロンドン塔や、ロンドン市庁舎をながめながら、テートモダンにむかいました。このテートモダンがすごく、すごく、すばらしかったので、モリシマはずっとこうふんしていました。『こんなところが日本にもあればいいのに!いやんなっちゃう!』と、モリシマはおもいました。テートモダンに入ってすぐのふきぬけでは、OLAFUR ELIASSONせんせいというひとのきょだいな展示がありました。ふきぬけには、もやのようなものがただよい、目の前にはきょだいな夕陽のようなものがどぉんと浮かんでいました。ゆかには、ねころんでこの空間を楽しんでいるひとがたくさんいました。
三階と五階には、テーマ別にフランシス・ベーコンせんせい、セザンヌせんせい、ダリせんせい、キリコせんせい、ピカソせんせい、ウォーホルせんせい、クーンズせんせい、ポロックせんせい、などなど、あらゆる現代びじゅつが展示されていました。『あらゆるびじゅつがここでみれちゃう!すごいなあ、テエトモダンは。』と、モリシマはすごく、すごく、こうふんしていたのです。それでモリシマは閉まるまでそこにいました。ここでは、モリシマはアートヤッテナイけれど、パンフレットとバッジを買いました。
テートモダンを出ると、ミレニアムブリッジという橋をわたりました。(ちなみにこの橋は、できたばかりの頃に『ゆれすぎる』と言われてしばらく改良工事がおこなわれていたそうです。)ちょうど目のまえにセントポール大聖堂があって、右手にはロンドン橋があって、遠くにはロンドン塔もみえて、夜景もすごく、すごくきれいだったので、モリシマはすごく、すごくこうふんしました。『ロンドンって、なんてすごいところなんだろう!いやんなっちゃう!』とモリシマは心のなかでさけびました。ひとりのりょこうだったので、モリシマはずっと心のなかでおしゃべりをしていたのです。
セントポールズからピカデリーサーカスまでアンダーグラウンドに乗り、駅を出てすぐのバーガーキングでモリシマはワッパーをはじめて食べました。『ポテトがおかしみたいでおいしい』と、モリシマはおもいました。そのあと、タワーレコードとHMVをのぞいてからラッセルスクエアにもどり、スーパーで水とチョコレートを買ってホテルにもどりました。
ホテルで、モリシマは、『クマのプーさん』をよみました。日本から持ってきた、石井桃子せんせいのほんやくです。よみながらモリシマは、『クマのプーさん』は、吉田戦車せんせいの『伝染るんです』に出てくるかわうそくんや、かっぱくんや、かえるくんにすごく似ているなあと、おもいました。あと、なによりもほんやくがすばらしいや、とも、おもいました。たとえば、こんなところがすばらしいや、と、おもいました。

「プー、きみ、朝おきたときね、まず第一に、どんなこと、かんがえる?」
「けさのごはんは、なににしよ?ってことだな。」と、プーがいいました。「コブタ、きみは、どんなこと?」
「ぼくはね、きょうは、どんなすばらしいことがあるかな、ってことだよ。」
プーは、かんがえぶかげにうなずきました。
「つまり、おんなじことだね。」と、プーはいいました。
(『クマのプーさん』A.A.ミルン作 石井桃子訳)

だんだんねむくなってきたので、モリシマは本をとじて、テレビをタイマーで切れるようにして、ねむりました。テレビをつけておいたのは、きっとさびしかったからでしょう。

「それから、どうしたの?」と、クリストファー・ロビンがいいました。
「いつ?」
「そのつぎの朝。」
「わからない。」
「またかんがえて、いつか、ぼくとモリシマに話してね?」
「とてもききたければね。」
「モリシマが、とてもききたがってるんだ。」と、クリストファー・ロビンはいいました。